地下ダムの発見

コラムのテーマを見つけるには、まず、その都道府県の地図を隅から隅まで眺めてみて、変わった地名、興味を引く地名がないかどうかを探します。新潟県と山形県の県境に「日本国」という山を見つけたときなどは、小躍りしたほどです(ちゃんとコラムにしました)。地図を眺めただけでは、どうにもひらめかないときには、関連書籍を探したり、ネットやAIと相談します。

宮古島について調べていたときに、『山の向こうから水を引け! 地図と地形でわかる日本の川と流域外分水』(三橋さゆり著、実業之日本社)という本に出会いました。この本の最後に、宮古島の「宮古用水」の話が出てきます。地面の下にダムを作るという話で、こんな面白い話はないと飛びつきました。ところが、です。関連する情報を探していると、……すでに「ブラタモリ」で紹介されていました。それどころか、著者の三橋さんは、かの「ダムカード」発案者でもあり、タモリの番組にも出演なさっているようです。

ことごとく「ブラタモリ」

宮城県の地図を見ているとき、花巻付近に「イギリス海岸」を見つけました。あれ、なぜ内陸なのに「海岸」なの?と思い、調べると宮澤賢治が同名のエッセーを書いています。これはネタになりそう。そう思い、深掘りしてみようとネット検索を始めますが、ふと、「イギリス海岸 ブラタモリ」と入れて検索をしてみたところ、……でました。「花巻はなぜ宮沢賢治を生んだ?」という放送回があるではないですか。

四万十川の源流が不入山いらずやまと分かったときに、直線距離で東に20km強の須崎湾に注がず、なぜクネクネ196kmも山の中を蛇行するのかと不思議に思いますよね。で、深掘りしていくと、キーワードは「穿入蛇行」です。これは、とてもいやな予感がしたので、「穿入蛇行 ブラタモリ」で検索。……でますね、しかも、そのものズバリ、四万十川がテーマです。

長崎の海岸線の長さは、面積に比して、異常に長いのです。海岸線と言えば「フラクタル図形」の典型ではないですか。……まさか、フラクタルまではだいじょうぶですよね。「長崎 フラクタル ブラタモリ」で検索。……やはり、ありました。

フラクタル図形の例として有名なコッホ曲線の図。1回の変換で、図形を構成するそれぞれの線分を3等分し、真ん中の1/3を正三角形の2辺に置き換えるという単純な変換がコッホ変換です。繰り返すたびに線の総数は4倍になり、長崎の海岸線のような複雑な輪郭が生まれます。図は6回の変換を行ったものです。

「枚挙にいとまがない」というのは、こういう状態のことを言うのでしょう。

ブラタモリとの被りは避けようがない

考えてみれば当然のことかもしれません。「ブラタモリ」という番組は、土地の成り立ちや地形、歴史といった観点から日本各地を読み解く番組です。

一方で本書のコラムも、地名表記や読みを手がかりに、その土地の背景にある歴史や地形、人々の暮らしに迫ろうとしています。見ている対象が同じであれば、行き着くテーマが重なるのは、むしろ自然なことかもしれません。

それに、ブラタモリがすでに取り上げているということは、その土地の話題がそれだけ豊かだということでもあります。同じ土地を、この地図帳のコンセプトでもある「読み」という別の入口から楽しめるなら、むしろ好都合ではないか——そう考えることにしました。

地名の読みにできるだけ注目

それでも、コラムのテーマ選びの際に、こだわったポイントがあります。それは、本書のコンセプトである、できるだけ地名の「読み」や「表記」に注目したテーマを追求するという点です。

たとえば、なぜ「埼玉市」ではなく「さいたま市」なのか。これには、そもそも、埼玉県という行政区の成り立ち以前の、古墳時代からたどるような長い話がその背景にあります。

地図帳では、三重県の「阿漕浦」という地名に、「あこぎうら」というふりがなが振られています。地図上で漢字表記の地名をざっと眺めていると、「阿漕」を「あこぎ」と読むことに気づかないかもしれません。じつは、「あこぎな人」というときの「あこぎ」は、この「阿漕」という地名なのです。現地に伝わる話を調べてみると、一般に理解されているこの言葉の意味と、この言葉の元になった地元での物語が、あまりに違うという驚きを書きました。地元での物語を知れば、「阿漕な人」の意味がまったく変わってしまうのです。

また、連載の第一回で取り上げた長野の「読書よみかき」という村の発見は、現時点では「ブラタモリ」で扱われていない数少ない例です。

小さく短いコラムですが、この本を手に取ってくださった方たちに、地名を通して土地の歴史と人々のくらしに思いを巡らしていただき、地図の新しい楽しみ方を知っていただきたい、そういう想いがぎっしり詰まっています。

これまで3回にわたって、この地図帳が生まれるまでの舞台裏をお話ししてきました。「地図を読む」ことの楽しさは、本書を手に取っていただくと、より深く伝わると思っています。2026年5月20日の発売を楽しみにお待ちください(20日は配本日なので、一部の地域では店頭にならぶのに数日かかるかもしれません)。