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地図は、やっぱり嘘つきである

――イコールアース(Equal Earth)図法について国連決議が言いたかったこと

地図は、やっぱり嘘つきである

© Golden Dayz/shutterstock.com

2026年9月、国連総会で、ちょっと変わった決議が採択された。世界地図に広く使われてきたメルカトル図法を見直し、正積図法、とくに「イコールアース(Equal Earth)図法」などで世界各地の面積を正しい比率で表す図法の利用を促そう、というのである。提案を主導したのはアフリカ諸国だった。

メルカトル図法の世界地図を見ると、グリーンランドとアフリカは、それほど違わない大きさに見える。しかし、実際のアフリカの面積はグリーンランドのおよそ14倍もある。これが、国連で問題視されたのだ。

なぜ、こんなことになるのだろう。

地球は丸い。この球面を切ったり破ったりせず、そのまま一枚の平面に移すことはできない。そこで地図をつくるときには、何かを正しく表す代わりに、何かをあきらめなければならない。

1569年にフランドルのゲラルドゥス・メルカトルが出版した地図は、「角度」を正しく表すことを選んだ。そのおかげで、地図上で一定の方位に進む航路を直線で描くことができる。航海には、たいへん便利なものだった。しかし、その代償として犠牲になったのが面積である。高緯度に行くほど地図が引き伸ばされるため、グリーンランドやカナダ、ロシアなどは実際よりずっと大きく描かれることになる。一方、赤道に近いアフリカは、それほど拡大されない。

メルカトル図法。角度が正しく表現される「正角図法」の代表格。地図帳などでも馴染みある地図表現だが、南北の極方向に近づくほど肥大化されて現れるため、グリーンランドが本来よりはるかに大きく見えてしまう。

国連で問題にされたのは、この「世界の見え方」だった。

長いあいだ、こうした世界地図を見続けることによって、ヨーロッパや北米は大きく、アフリカは小さいというイメージがつくられてきたのではないか。アフリカ諸国は、これを単なる地図製作上の問題ではなく、世界認識の問題として提起したのである。

そこで推奨されたのが、2018年に発表されたイコールアース図法である。こちらは「正積擬円筒図法」の一種で、アフリカとグリーンランドのような面積の比率は正しく表現される。しかし、どんな地図にも「あきらめなければならない」ものがある。イコールアースの場合は、方位(角度)や形だ。

イコールアース図法。面積が正しく表現できるものの、楕円に近い形状のため中心から離れるほど歪みが激しくなり、日本列島も本来より反って現れる。

このニュースを読んでいて、私は一冊の古い本を思い出した。

シラキュース大学のマーク・モンモニアという地理学者が書いた、『地図は嘘つきである』(渡辺潤訳、晶文社、原著1991年、翻訳1995年)である。原題は How to Lie with Maps。面白いことに、今回の国連決議を報じたAP通信の記事にも、そのモンモニア本人が登場している。

記事は、従来のメルカトル図法は航海にしか役に立たないという地理学者たちの見解を紹介したうえで、モンモニアの言葉を引いている。

“Outside of that very narrow navigation application, there is no point in using it.”

「そのごく限られた航海上の用途を除けば、これを使う意味はない」

35年前に『地図は嘘つきである』を書いた本人が、2026年になって、まさに世界地図の「嘘」をめぐるニュースについてコメントしているのだから、なんとも面白い。

もっとも、この本のいう「嘘」は、悪意をもった地図製作者が人をだます、という意味ではない。この本を読んでいると、地図についての、もっと根本的な問題が見えてくる。

地図は、嘘をつかなければつくれない

興味深いことに、『地図は嘘つきである』には、今回とよく似た騒動がすでに登場している。ドイツの歴史家アルノ・ペテルス(英語読みでは「ペータース」)のエピソードである。

ペテルスは1970年代、メルカトル図法ではヨーロッパなど北半球の国々が過大に描かれ、発展途上国が相対的に小さく見えるとして、新しい世界地図を提唱した。今回の国連決議と同じく、彼が採用したのは、面積を正しく表す正積図法だった。

「世界を公平に描こう」というペテルスの主張は大きな反響を呼んだ。しかし、地図学者たちはこれを批判した。面積は正しくても、大陸の形がかなり変形してしまうからである。

しかも、ペテルスが新しい図法として発表したものと実質的に同じ図法は、19世紀にスコットランドのジェームズ・ガルがすでに発表していた。そのため、現在では一般に「ガル=ペータース図法」と呼ばれている。

それから半世紀たった2026年。

今度はイコールアース図法をめぐって、ほとんど同じ問題が国連総会にまで持ち込まれた。

ただし、イコールアースは、形が大きく歪んでしまうガル=ペータース図法の地図と同じではない。面積を正しく保ちながらも、形が極端には崩れないよう工夫された、現代的な正積図法である。

では、メルカトル図法は「嘘」で、イコールアースは「本当」なのだろうか。

たしかにイコールアース図法は面積については嘘をつかない。しかし、方位(角度)や形、距離については歪みがある。メルカトルは、面積については大嘘をつくが、局所的な方位(角度)や形を保つことができる。

以前、某テレビのニュース番組で、北朝鮮のある軍事施設から、ミサイルの射程「200キロ圏」を説明する場面を見たことがある。画面に映された地図の基地の位置にコンパスの針を置き、ぐるりと円を描いて、「ここまでが200キロです」と説明していた。

その地図がWeb地図で広く使われるWebメルカトル図法だったとすれば、これは間違った地図の使い方だ。地図上で中心から同じ長さになる円を描いたからといって、地球上でも中心から同じ距離になるとは限らないからだ。

もっとも、200キロならまだ誤差は小さい。しかし、そのずれは距離が伸びるほど大きくなる。射程1万キロのICBM(大陸間弾道ミサイル)の到達範囲を同じやり方で描いたら、まったく違う場所を指すことになる。

もちろん、距離を正しく表すことを目的として、発射地点を中心に正距方位図法で描かれた地図を使えば、中心から200キロの距離は、きれいな正円になる。

つまり、どの地図が正しいかという問いの立て方自体が問題なのだ。何を知りたいのかによって、「正しい地図」は変わるからだ。

面積を比較したいのなら正積図法。方位(角度)を重視するなら正角図法。ある地点からの距離を知りたいのなら、それぞれに適した正距図法を使う。

すべてについて正しい世界地図は存在しない。

モンモニアのいう「地図は嘘つきである」という言葉は、原著刊行から35年たった今も古びていない。問題は、地図が嘘をつくことではない。何について本当のことを表現していて、何について犠牲にしている地図なのかを正確に知らずに、私たちが地図を見てしまうことなのだ。

今回の国連決議も、メルカトル図法を否定しているわけではない。地図は正しい見方をしてほしい、このことを言いたいのだろう。

地図往来

地図制作の現場体験から「地図」の魅力を多方面にわたり語って参ります。地図はおもに私達の生活する地球上の時空間の仕組みを図化するものです。従って、自然、人文現象等、森羅万象を対象といたします。縮尺の概念が絡む世界ですが、大変広域に、また奥深く・・・お楽しみに!

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